[資料] 湿原の保護・保全について

霧ヶ峰湿原群落調査研究委員会「霧ヶ峰湿原植物群落調査研究報告書」から

 

「植物からみた湿原の保護・保全対策」

「堆積物からみた踊場湿原の湿原の保護・保全対策」

「水からみた湿原の保護・保全対策」  

「現状の霧ヶ峰湿原の姿を残し、教材として活用するため、純粋な学問的立場から、実現可能な保護・保全対策を提言する」という立場に立って、調査研究の成果に基づき、総合的な保護・保全を提言したい。として出された 「緊急対策」
 

 以上の提言を紹介します。この報告書は諏訪市内の図書館で見られます

「霧ヶ峰湿原植物群落調査研究報告書」
霧ヶ峰湿原群落調査研究委員会
委員長   田中 邦雄  信州大学名誉教授
副委員長  菅原 聰   信州大学名誉教授
(1998年3月/諏訪市教育委員会)

  

霧ヶ峰湿原の保護・保全対策

植物からみた湿原の保護・保全対策について

1.湿原の保全は、まず湿原をとりまく集水域の保全と管理である。

2.集水域内では、キャンプ場や、建造物、道路など、また牧草地の施肥など湿原の水質などに直接、間接的に影響する施設や施策を再検討すべきである。車山に建設予定の気象観測所も茅野市側に建設すること。

3.湿原周囲にある車道、とくに八島ヶ原湿原東側の車道は、自動車の排気ガスや粉塵により、栄養条件に微妙な湿原植物に影響があると思われ、その対策を早急にとるべきである。

4.各湿原の周囲の歩道は、踏圧により、周囲の草原と湿原との地下水の水路を遮断しており、とくに危険な踏み込み地域(八島ヶ池、鬼ヶ泉水、鎌ヶ池など)では、高架歩道を設置すること、車山肩から白樺湖へつづく車山湿原沿いの歩道は木道を設置し、湿原への土砂の流入を防ぐことが必要である。

5.湿原には多数の踏み跡や踏み込み道がみられるが、さらに監視と指導を強める。

6.湿原の乾燥化の他の要因として、周囲の別荘地、ゴルフ場、スキー場などの開発にともなう用水確保による地下水や表流水の減少があるかもしれないので、調査が必要である。

7.帰化植物については、
湿原の周囲も含めて、帰化植物が生育しやすいような環境、すなわち人の踏み込み、土壌の乾燥化、土砂の流入、至近の歩道・車道利用などを防ぐことは必要である。

8.国定公園特別地域での人為的な行為は規制されるべきで、踊場湿原のスキー場利用や草刈りは問題がある、また冬季のスキーによる各湿原立ち入りも検討すべきである。

9.霧ヶ峰における既得権や、観光客の利用などさまざまな問題があり、湿原保全の施策は困難な状況にある。前者は長期的展望のもとに関連機関と連携をとりながら保全を推進していくことが求められる。後者は今後もさらに歩道の整備や啓発設備の充実、また学校、社会教育などあらゆる場を通して粘り強く啓発活動を続けていかねばならない。

10.霧ヶ峰の3湿原は、日本のみならず世界に誇るべき自然の貴重な遺産であり、その存続を後世にはかるためにも、地域の人々の英知を結集していかねばならない。そのための一施策として、霧ヶ峰湿原保全委員会のような継続的な組織が必要とされる。

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堆積物からみた踊場湿原の湿原の保護・保全対策について

1)堆積物からみた踊場湿原の湿原の保護・保全対策
踊場湿原に特徴的な問題として、昆虫や植物の採集、カメラマンの周回路から湿原内への侵入がある。柵内の侵入路も他の湿原より目立つ。観光客が少ないので起こる問題である。看板などで採集禁止区域であることを明示するとともに、監視を強化することが必要であろう。

2)高層湿原保全の緊急対応策
高層湿原は雨水や霧水によって涵養され、低温・多湿・強酸性・貧栄養という植物にとって厳しい条件下で、微妙な生態系が成立している。外部からの汚水の流入は湿原内の植物にとって致命的である。踊場高層湿原・車山高層湿原・八島ヶ原高層湿原の保全のためには、外部からの汚水の流入を避けることが緊急の対応策と考える。

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水からみた湿原の保護・保全対策について

 1.基本的立場 略

 2.八島ヶ原湿原(鎌ヶ池水系を中心に)

1.鎌ヶ池周辺に、自記水位計、自記雨量計を設置し、冬を含め年間を通じての長期に亘る観測データを集積し、長期的な水収支のアンバランスが発生しているか否か検討できる体制を組む。少なくも、10年間程度のデータ集積は必要である。
2.湿原出口、または御射山諏訪神社湧水での、定期的な「流水測定」を実施し、湿原の地下水位の変動との関連を見届ける。さらに、八島ヶ原湿原全体の水収支の傾向性に、長期的アンバランスが発生しているか否かを監視する。
3.湿原への富栄養化を引き起こす物質の流入を今後、毎年監視を続けるとともに、観光客の食べ物投棄、屎尿処理などの面で、富栄養化原因の流入がないよう手だてを講じ、PRが必要である。
4.5.6 略

 3 車山湿原

1.2 略
3.車山・樹叢の下部から、この湿原に流入する水の水路のうち、観光客の通路となっている部分については、木道を設置することも、踏み付けを防止するために必要である。
4.5.6 略

 4 踊場湿原

1.2.3.4 略
5.「アシクラ池」底質土の溶出試験で確認された、植物に有害なアルミニュウムについては、今後も、年に1回程度の試験データを集積し、長期的監視が必要である。
6.7.8.9 略

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緊急対策

1.表流水・地下水対策

  乾燥した湿原は、湿原ではない。乾燥化の防止が何よりも重要である。水がありすぎても湿原にはよくない。湿原の保全は、集水域全体の保全があってはじめて可能となる。谷があり、川が流れ、低層湿原があり、中間湿原があって、中央の高層湿原が形成されている。流れ込む表流水の水量、水質が重要になる。
  したがって、木道は杭で浮かせる構造が望ましい。特に八島ヶ原湿原の枕木を並べた木道は、水量、水質に悪影響を与えるため早急に改めるべきである。
  地下水も湿原を涵養する重要な要素である。周辺の地下水の汲み上げは、湿原に影響する。特に踊場湿原の地下には断層が走っており、この断層は車山の南側を通って茅野市白樺湖方面に伸びている。断層上で大量の地下水の汲み上げがはじまれば、必ず湿原の枯渇を招くであろう。注意を促したい。
  八島ヶ原湿原の鬼ヶ泉水は、現在消滅しつつある。原因として、樹木による地下水の蒸散が考えられる。自然保護団体とも話し合い、試験的に伐採してみることも必要である。尾瀬では実際に伐採している。

※注 八島ヶ原湿原の下諏訪町側は木道の改良工事が始められた。(2001/8/20)

2.観光客対策

  観光客を制限するのは、非現実的である。また、天然記念物は教材でもある。湿原に影響を与えずに活用するためには、整備された木道が必要である。車山湿原、踊場湿原は木道のない状態なので、至急整備すべきである。八島ヶ原湿原についても、下諏訪町側の整備が望まれる。
  車山湿原の周囲の遊歩道は、夏期に多量の表流水によりぬかるみとなり、観光客が避けて歩くため、道が広がりつつある。水質や流路に影響しないよう、杭で浮かせた木道が必要である。
  また、冬期のスキーによる湿原への侵入、キャンプ設営による排泄物、ゴミの排出等の影響は看過できないので、至急関係者への注意、看板等の設置が必要である。

※注 八島ヶ原湿原の下諏訪町側は木道の改良工事が始められた。(2001/8/20)

3.教育対策

  湿原の保護が極めて重要であるという合意が必要であり、観光客や市民に対して、啓発・教育が必要である。霧ヶ峰自然保護センターや、諏訪市から植物保護パトロールを委託されている千葉大学植物同好会の学生が植物観察会等を開催しているが、市民を含めた取り組みをより一層拡充することが必要である。

4.土地利用・開発面の対策

  湿原の集水域に含まれる開発計画は湿原に影響を与えかねないので、話し合いをもつことが必要である。

5.土砂対策

  集水域内の草原の荒廃地、裸地化した箇所は、緊急に修復する必要がある。

6.排水・ゴミ対策

  踊場湿原の脇の山林は、ゴミや大便が散乱している。観光客に対する意識啓発等の看板が必要である。
  八島ヶ原湿原のすぐ脇に、山荘、オートキャンプ場などがある。水源や排水について問題が起きる可能性がないとはいえないため、充分な指導をおこなうとともに、定期的な水質等の検査が必要である。

7.調査研究体制について

  湿原の水位観測、流入河川の水質検査、流出河川の水量、湿原自体の乾燥度、降雨量、気温等の気象観測について、定期的継続的な10年以上の調査が必要である。最近は観測機器の進歩により、経費も人手もあまり要しない観測も可能になっている。降雨量の観測は、2〜3万円の機器を設置、年数回のデータ回収で足りる。湿原自体に観測装置を設置する必要がある。
  八島ヶ原湿原西ドームは乾燥化しつつある。植物相にも変化が起きておりいくつもの亀裂が生じている。これは植物が腐るときのメタンガスの放出口と考えられる。西ドームについても早急に断面図をつくり、今後の変化をみる必要がある。

8.保護推進体制について

  以上に述べた対策の全てを、諏訪市だけですぐ実施することはかなり困難であろう。周辺市町村、特に八島ヶ原湿原を共有する下諏訪町との連携、さらには国、県の応援が必要である。広い範囲にわたっているため、ボランティアの協力ももっと考慮されてよいものである。

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